From…自然とのつき合い方
2013年02月08日(金)キャンプについて
数年前に秋田県キャンプ協会のお世話で、北海道・東北ブロックの協会の方々と「マタギ」の冬の生活体験をすべく秋田県北秋田市にある阿仁というマタギの集落を訪問したことがあった。
寒いというより凍えるような冷たさの中に阿仁はあった。第14代シカリ(マタギの頭領)松橋時幸さんが連れて行ってくれた森吉山の山頂は、ペットボトルを片手に持ってもう一方の手でそれを叩くと中の水が一瞬のうちに氷るほどの寒さだった。我々はダウンジャケットの下にフリースのウエアを着込み、手袋やウエアのポケットに手もみカイロを突っこんで達磨さんのような格好で震えているのに、マタギの松橋さんは木綿の足袋にわら草履、短筒袖の綿入れの上着と袴にわら蓑を着けているだけ、驚いたことに手は素手であった。
この姿で我々を案内して雪の山をずんずん先導してくれたのであった。話によると、昔のマタギはこの装備で熊が獲れるまで何日も雪山で過ごしたという。雪の中で過ごすマタギの雪洞の作り方まで教えていただいたが、これはそこに寝てみたいと思えるような代物ではなかった。
1泊2日のマタギ体験キャンプはまさに異文化体験だった。得難い体験をしたと思いつつ下山をし、厳しい自然の中で暮らす人々の自然とのつき合い方に言い知れぬ凄みを感じたことであった。
ひるがえって、フリースやダウンに守られながらも「寒い、さむい」を連発していた自分を振り返ると「情けない」の一言に尽きるが、これもウインターキャンプの一つの成果であったと言えるのかもしれない。
従来はこのシーズンにキャンプをするなど思いもよらなかったが、厳冬期のアウトドア用品が革命的に進化し、軽くて性能の良いものとなり、しかも安価に入手出来るようになったことで、このシーズンにも各地で雪中キャンプが盛んに行われるようになった。
用具の発達が私たちのキャンプやライフスタイルを変え、ことに身に着けるものの進化は我々を暖かく守り、ためらいなく屋外に連れ出すようになった。そして、屋外から帰って来たときの、部屋の温もりや咽喉からお腹に落ちていく豚汁の熱さに「いいね」と顔を見合わせる安堵感と幸福感がすばらしい。
このコラムは、日本キャンプ協会 石田易司会長・星野敏男副会長・
神?清一常務理事・吉田大郎常務理事からなる論説チームが担当します。
CAMPING151号より転載