from…キャンプと自然文化
それは、日本の文化や自然、風景にまつわる言葉が、今の若者や子どもたちに伝わらない、理解されないという話題だった。
最初は、舞踏家の麿赤兒(まろあかじ)さんの講演会で。「舞台の動きの指導で、たとえば『もっと忍者のようにヒタヒタ走れ』と言うと、ヒタヒタ走るというのがどういう走り方なのか、カラダの動きがまったくイメージできないようなのです」。
次は、トヨタ白川郷自然学校の西田校長の言葉。「私たちは普段、自然をどんなふうに見ているか少し考えてもらおうと、大学生相手に色合わせのプログラムを展開したのですが、鴇色(ときいろ)や鶯色(うぐいすいろ)と言っても、この色合いをイメージできる学生がほとんどいませんでした」。
そして、つい最近のこと。代々木のオリンピックセンターであったコンサートでの、歌手のしらいみちよさんの話。「最近では、日本の伝統的童謡は小学校の音楽教科書からどんどん削除されています。なぜだか、わかりますか?童謡の中で使われている言葉が理解できないのはもちろん、そこに歌われている自然の景色や情景を思い浮かべることのできる子がほとんどいないからだそうです」。
言葉や風景、考え方などは、時代とともにいつしか変化していくものであり、変化すること自体は誰にも止められない。たとえば「鴇」という字を見ても、読める人さえ今やなかなかいないかもしれない。しかしそれにしても、今、私たちの暮らしの中から伝統的な文化や自然にかかわる大事な言葉が、あまりにも多く、しかも急速に失われていこうとしている。
キャンプという活動はきっと、子どもたちに自然にまつわる文化を継承していくという大事な役割も担っているはずである。キャンプで楽しい日々を過ごすうちに、自然の見方や感じ方、価値観などが知らず知らずのうちに子どもたちに受け継がれる。そして彼らが大人になった時に、さらに次の世代へと継承されていく。そのようなキャンプが世界各地で行われれば、大事な言葉や文化を失うことの歯止めに少しはなるのではないか、各氏の話を聞きながら、そんなことを考えた。
CAMPING 138号より