日本キャンプ協会

From…言語化と理論構築の必要性

 重い病気やグリーフ(悲嘆)を経験した子どもやその家族を対象としたキャンプの運営アドバイザーとして、アメリカやヨーロッパで活躍しているテリー・ディグナン氏が来日し、東京や大阪で「グリーフキャンプ」や「セラピューティック・レクリエーションとしてのキャンプ」をテーマに講演をしてくれた。
 淡々と、明瞭な語り口で、論理的にプレゼンテーションをする彼に、同じキャンプ人間として違和感を持つほどに驚いてしまった。私たちはともすると聴衆を笑わそうとしたり、盛り上げようとしがちだ。ところが彼は、穏やかに積み重ねるように言葉を運んでいた。
 やがて話の内容を理解するにつれ、その語り口に納得した。彼は小児がんなどの重い病気の子どもたちや、家族を病気や自殺、あるいはテロ事件で亡くした家族など、社会的に困難を抱える人たちのキャンプに長年取り組んできた。その過程で、医師や心理カウンセラー、世界中のボランティアなど、これまでいっしょにキャンプをしてこなかった人、さらにはまったくキャンプを知らない人とも相互理解を深める必要があった。組織キャンプの伝統を持たないアイルランドでキャンプへの理解を得るために、わざわざアメリカの医師を連れてきたこともあるという。そうやってキャンプを行い、医療的、心理的な効果をあげ、その効果とキャンプの意義を市民に伝え、次のキャンプにつながる資金集めを行っている。
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 私たちも、キャンプが子どもたちに与える影響の大きさを体で感じて知っている。そして、同じように感じている仲間とともにキャンプを実践している。しかし、そのすばらしさが他分野の専門家や一般市民に広く伝わっているとは言えない。日本中の多くの人たちは、キャンプの力をほとんど知らないままだ。多くの人にキャンプのよさを知ってもらい、いっしょにキャンプをし、協力してもらうためには、私たちの実感を言語化し、理論構築することが必要なのかもしれない。わかりやすい理論を持ち、平易な言葉を使って、キャンプを知らない人たちにも納得してもらうことが大切だ。

 ディグナン氏の語り口は、まさにそのことを体現していた。グリーフケアやキャンプマネジメントに関する話の中身もすばらしかったが、彼の存在そのものに学ぶところが多い数日間だった。

CAMPING 146号より転載
写真:病児キャンプでのひとこま(Barretstown・アイルランド)